2014年07月01日
内外政治経済
所長
稲葉 延雄
社会保障改革は財政再建のために不可欠な作業であり、一つひとつ解決していく必要がある。
年金制度は最も重要な改革の対象として、いつも与野党間で政治課題の筆頭にとり上げられ、しかも何もできないでいる。しかし改革の方向性は明らかであり、ポイントはいたずらに政治問題化させないことであろう。原理的にみて、人口減少の下で保険料収入が増加しない以上、将来にわたって持続的な年金制度とするためには、必要に応じて年金支給開始年齢を少しずつ引き上げていくしか方法がないからである。
これに対して、大改革が必要なのは医療費問題である。医療費は将来にわたり年々1兆円規模で増え続けると予測されており、財政赤字をさらに悪化させる主因となっている。そして、「難病治療を含め医療行為がますます高度化しているので、勢いコストも増大せざるを得ない」という説明が多くなされている。しかし、これはよく考えると、ひどくおかしな説明である。
一般にわれわれに提供される財やサービスは、生活をより便利にしたり、より快適にしたりしてくれるが、それで価格が年々上昇するようなことは必ずしも起きていない。実際、個別の物価は上がり下がりするものの、消費者物価全体としては大体横ばいで推移しているのが、何よりの証拠である。
これは、財・サービスを生産する企業が(それが高度なものであれ何であれ)必死になって生産コストを下げ、ライバル企業との競争に打ち勝とうとするからである。消費者としても豊かさを確実に実感できるのは、より便利でより快適さを味わえる財・サービスを、これまでと変わらぬ価格か、それ以下で購入できた時である。
医療分野でも、競争原理を一層とり入れた改革を進めることで、医療サービスの水準を落とすことなく、コストの累増を回避することができる。薬価についても同様である。確かに新薬の開発には莫大なコストがかかる。だがその償却が済めば、優れた効能を示すからといって、その価格が高くあり続ける理由は必ずしもない。
具体的な改革項目としては、病院経営への企業の参画のあり方や高度先進医療・混合医療のあり方の検討のほか、ジェネリック(後発)医薬品のさらなる利用促進などが挙げられている。着実な改革により、民間企業の活力をうまく活用できれば、医療費のコスト増大は抑えられるし、財政再建に向けて消費税増税への過度な依存も回避できる。
稲葉 延雄